ある人、弓射ることを習ふに
ある人、弓射ることを習ふに、諸矢をたばさみて的に向かふ。師のいはく、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢
を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ。」と言ふ。わづかに二つの矢、師の
前にて一つをおろかにせんと思はんや。懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。この戒め、万事にわたるべし。
道を学する人、夕べには朝あらんことを思ひ、朝には夕べあらんことを思ひて、かさねてねんごろに修せんことを期す。いは
んや一刹那のうちにおいて、懈怠の心あることを知らんや。なんぞ、ただ今の一念において、ただちにすることのはなはだ難き。(第九二段)
現代語訳
品詞分解
ある 連体
人、 名
弓 名
射る 動(ヤ上一・連体)
こと 名
を 格助(対象)
習ふ 動(ハ四・連体)
に、 格助(時間)
諸矢 名
を 格助(対象)
たばさみ 動(マ四・連用)
て 接助(単純)
的 名
に 格助(対象)
向かふ。 動(ハ四・終止)
師 名
の 格助(主格)
いは 動(ハ四・未然)
く、 接尾
「 初心 名
の 格助(連体修飾)
人、 名
二つ 名
の 格助(連体修飾)
矢 名
を 格助(対象)
持つ 動(タ四・連体)
こと 名
なかれ。 形(ク・命令)
後 名
の 格助(連体修飾)
矢 名
を 格助(対象)
頼み 動(マ四・連用)
て、 接助(単純)
初め 名
の 格助(連体修飾)
矢 名
に 格助(対象)
なほざり 名
の 格助(連体修飾)
心 名
あり。 動(ラ変・終止)
毎度 副
ただ 副
得失 名
なく、 形(ク・連用)
こ 代名
の 格助(連体修飾)
一矢 名
に 格助(手段)
定む 動(マ下二・終止)
べし 助動(意志・終止)
と 格助(引用)
思へ。」 動(ハ四・命令)
と 格助(引用)
言ふ。 動(ハ四・終止)
わづかに 形動(ナリ・連用)
二つ 名
の 格助(連体修飾)
矢、 名
師 名
の 格助(連体修飾)
前 名
にて 格助(場所)
一つ 名
を 格助(対象)
おろかに 形動(ナリ・連用)
せ 動(サ変・未然)
ん 助動(意志・終止)
と 格助(引用)
思は 動(ハ四・未然)
ん 助動(推量・終止)
や。 係助(反語)
懈怠 名
の 格助(連体修飾)
心、 名
みづから 副
知ら 動(ラ四・未然)
ず 助動(打消・終止)
と 格助(引用)
いへ 動(ハ四・已然)
ども、 接助(逆接確定)
師 名
これ 代名
を 格助(対象)
知る。 動(ラ四・終止)
こ 代名
の 格助(連体修飾)
戒め、 名
万事 名
に 格助(対象)
わたる 動(ラ四・終止)
べし。 助動(推量・終止)
道 名
を 格助(対象)
学する 動(サ変・連体)
人、 名
夕べ 名
に 格助(時間)
は 係助(提示)
朝 名
あら 動(ラ変・未然)
ん 助動(婉曲・連体)
こと 名
を 格助(対象)
思ひ、 動(ハ四・連用)
朝 名
に 格助(時間)
は 係助(提示)
夕べ 名
あら 動(ラ変・未然)
ん 助動(婉曲・連体)
こと 名
を 格助(対象)
思ひ 動(ハ四・連用)
て、 接助(単純)
かさねて 副
ねんごろに 形動(ナリ・連用)
修せ 動(サ変・未然)
ん 助動(意志・連体)
こと 名
を 格助(対象)
期す。 動(サ変・終止)
いはんや 副
一刹那 名
の 格助(連体修飾)
うち 名
に 格助(時間)
おいて、 連語
懈怠 名
の 格助(連体修飾)
心 名
ある 動(ラ変・連体)
こと 名
を 格助(対象)
知ら 動(ラ四・未然)
ん 助動(推量・終止)
や。 係助(反語)
なんぞ、 副係
ただ今 名
の 格助(連体修飾)
一念 名
に 格助(時間)
おいて、 連語
ただちに 副
する 動(サ変・連体)
こと 名
の 格助(主格)
はなはだ 副
難き。 形(ク・連体)結
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