Talking Plants | STUDY POINT~高校授業編~

Talking Plants

PRO-VISION

Talking Plants








Part 1
ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』には,言葉を話す花が出てきます.アリス
という名の少女が,彼女に話しかけるユリに出会います.アリスはとても驚いて何と
言ってよいかわからなくなりますが,ようやく尋ねます.「花はみんな話せるの?」
人に話しかける植物は,空想の物語だけに見られますが,近年の科学的研究によれ
ば,植物が独特の方法でまわりにいる一部の昆虫と「交信」できることが明らかにな
っています.植物はどのようにそうするのでしょうか.例えば,トウモロコシはイモ
ムシに食べられているとき,空気中に化学物質を発します.人間はその物質に気づき
ませんが,昆虫は気がつきます.その化学物質は,イモムシの天敵である寄生バチを
呼び寄せます.これらのハチはトウモロコシが化学信号を発しているのを「聞きつけ
ます」.そしてイモムシのところに飛んでいき,攻撃します.だから,トウモロコシは,
ある意味,自分たちを救うために,「ボディーガード」を呼んでいるのです.







Part 2
トウモロコシはさまざまな種類のイモムシに食べられますが,それぞれの種類のイ
モムシに特定の天敵のハチがいます.トウモロコシは,自分の身を守るために,自分
を食べているイモムシの種類に応じて,異なる種類の信号を使います.こうすること
で,その特定のイモムシの天敵となるハチだけを呼び寄せます.トウモロコシは「私
は今食べられている!」と言っているだけではありません.「だれが」自分を食べてい
るのかも言っているのです.
トウモロコシによって発せられる化学信号は,さまざまな成分で構成されています.
それらの成分の混合方法をさまざまに変えることによって,トウモロコシは多様な化
学信号を作り,多様な種類のイモムシの攻撃に対処できるのです.
トマト,リンゴ,マメなどの他の種類の植物も,攻撃を受けると化学信号を発しま
す.オランダのワーゲニンゲン大学のマーセル・ディック教授は,「ボディーガードに
話しかけるのは,ほとんどの植物種が持っている特性のようです」と述べています.
植物がそのような複雑な防衛システムを持っているのは驚くべきことです.



Part 3
食害を受けた植物からの化学信号は,ハチだけでなく近くの植物にも受信されてい
ます.これらの他の植物は,「会話を盗み聞き」しているのです.この現象を確認する
ために,京都大学の高林教授と研究チームは,トマトの苗とイモムシ(蛾の幼虫)を
使って実験を行いました.彼らは,イモムシに食べられているトマトの苗の隣に,健
康な(=イモムシに食べられていない)トマトの苗を置きました.すると驚くべきこ
とが起こりました.健康なトマトの苗は,もう片方のトマトの苗から発せられた化学
物質を吸収して,イモムシに有害な物質を作り出したのです.言い換えると,健康な
トマトの苗は隣からのメッセージを「聞き」,前もってイモムシに対する防御策を講じ
たのです.
この種の植物間の「交信」は,異なる種類の植物の間でも行われているようです.
食害を受けたヤマヨモギの近くにあるタバコの苗が防御策を講じて,イモムシからの
被害を減らしていることを示した研究があります.タバコの苗はヤマヨモギからの化
学信号を「聞いて」いるのです.







Part 4
実際のところ私たちの耳には聞こえませんが,私たちを取り巻く環境は,植物と昆
虫の「会話」に満ちています.実際,自然界の多種多様な種が互いに交信しているの
です.
植物と昆虫の間のこれらの交信は,農作における殺虫剤の使用を減らすのに役立つ
可能性があります.高林教授の研究チームは,寄生バチを助力者として利用する方法
を開発しました.以下がそのやり方です.まず,食害を受けた水菜が発するのと同じ
種類の化学物質を作ります.その化学物質を使って,水菜でいっぱいになった温室に
寄生バチを呼び寄せます.これらの寄生バチが温室内を飛びまわりながら,イモムシ
を見つけ攻撃するのです.「しかし,温室のまわりにイモムシの天敵がいなければ,こ
の方法はうまくいきません.周辺地域の種の多様性を維持する必要があるのです」と
高林教授は言います.
国連の報告によると,主に人間の環境破壊の結果として,今,毎年何万もの種が絶
滅しています.ひとたび一つの種が失われると,他の多くの種に影響が及びます.も
し私たちが環境破壊を続ければ,ますます多くの種が絶滅するかもしれません.そう
ならないように,私たちは自然界の「声」にしっかりと耳を傾ける必要があります.

WINDOW 1
寄生バチはどのようにイモムシを退治するか
寄生バチは,植物が発する化学物質の信号を受け取ると,イモムシのいるところに
飛んできて,その体内に卵を産みつけます.卵がかえると,ハチの子どもたちはイモ
ムシの体内で成長しはじめます.彼らはイモムシを食べて育ち,最終的にイモムシを
殺してしまいます.



Summary
Part 1
In Lewis Carroll’s book, Alice encounters a lily that speaks to her. This is just a fantasy story,
but research shows that plants can “communicate” with some insects. For example, when
corn plants are being eaten by caterpillars, they send out a chemical. This attracts the natural
enemies of the caterpillars: parasitic wasps. Corn plants are in a sense calling their
“bodyguards” to save them.

ルイス・キャロルの本では,アリスが彼女に話しかけるユリに出会います.これは空
想の物語にすぎませんが,植物が一部の昆虫と「交信」できることを示す研究があり
ます.例えば,トウモロコシはイモムシに食べられているとき,化学物質を発します.
これはイモムシの天敵である寄生バチを呼び寄せます.トウモロコシは,ある意味,
自分たちを救うために,「ボディーガード」を呼んでいるのです.







Part 2
Corn plants use a different type of chemical signal depending on the type of caterpillar
attacking them. So, corn plants attract only the enemy wasp of that particular caterpillar.
The chemical signals are made of various components. By changing the blend of those
components, corn plants make various types of chemical signals. Professor Dicke says,
“Talking to their bodyguards is likely to be a characteristic of most plant species.”

トウモロコシは,自分を攻撃しているイモムシの種類に応じて,異なる種類の化学信
号を使います.その結果,その特定のイモムシの天敵となるハチだけを呼び寄せます.
それらの化学信号は,さまざまな成分で構成されています.それらの成分の混合方法
を変えることによって,トウモロコシはさまざまな化学信号を作ります.「ボディーガ
ードに話しかけるのは,ほとんどの植物種が持っている特性のようです」と,ディッ
ク教授は述べています.



Part 3
The chemical signals from damaged plants are received by plants nearby also. They are
“listening in on the conversation.” A Kyoto University research team did an experiment with
tomato plants and moth caterpillars. Two tomato plants were placed next to each other—one
was being eaten by a caterpillar. The other tomato plant produced a substance that was
harmful to the caterpillar after “hearing” a chemical message from its neighbor. And this kind
of plant-to-plant communication seems to take place even among different kinds of plants.

食害を受けた植物からの化学信号は,近くの植物にも受信されています.これらの植
物は,「会話を盗み聞き」しているのです.京都大学の研究チームは,トマトの苗とイ
モムシ(蛾の幼虫)を使って実験を行いました.2 つのトマトの苗を隣どうしに置き
ました.そのうち一つはイモムシに食べられているものでした.すると,もう一方の
トマトの苗が隣のトマトの苗から発せられた化学物質を吸収して,イモムシに有害な
物質を作り出したのです.そして,この種の植物間の「交信」は,異なる種類の植物
の間でも行われているようです.







Part 4
Interactions between plants and insects can help to reduce pesticide use in farming.
Takabayashi’s research team has developed a method for using parasitic wasps as helpers.
They produce and use a chemical that attracts wasps to a mizuna greenhouse. The wasps then
attack the caterpillars in the greenhouse. This method, however, doesn’t work unless there are
wasps around the greenhouse. We must listen to the “voices” in nature to maintain the
diversity of species in the environment.

植物と昆虫の間の交信は,農作における殺虫剤の使用を減らすのに役立つ可能性があ
ります.高林教授の研究チームは,寄生バチを助力者として利用する方法を開発しま
した.水菜の温室にハチを呼び寄せる化学物質をつくり,利用します.これらのハチ
が温室内のイモムシを攻撃するのです.しかしながら,温室のまわりにハチがいなけ
れば,この方法はうまくいきません.周辺地域の種の多様性を維持するために,私た
ちは自然界の「声」にしっかりと耳を傾けなければなりません.


コメント