Hacking Your Brain
1 / 私は脳外科医です。私はいつも人間の脳について考えています。今日,脳につい
て話したいことがいくつかあります。脳は人々の日常での活動の中で,特にスポーツ
においては,興味深く働きます。
2 / スポーツが上手くなるには一生懸命に練習をする必要があると,よく耳にします。
確かにそうです。一般的に,練習は技術の向上に役立ちますし,体力を増強させます。
練習の中で,重要な技能を身につけます。そして,試合でそういった技能を応用する
のです。勝つか負けるかは,しばしば 2 つの要素にかかっています。つまり,どのく
らい成功したいのか,そして,どのように大会で脳を使うのか,ということです。
3 / 私は,さまざまなスポーツにおいて,アスリートにアドバイスをする機会がよく
あります。そのアドバイスのいくつかを,ここで説明したいと思います。
4 / “in the zone (ゾーンに入る)”というフレーズを知っていますか。試合中,ゾーン
に入っているときには,自身の持てる最大限の力を発揮することができます。試合中,
まさにその瞬間にだけ集中しているのです。私は以前,その“in the zone”の概念につ
いて,フィギュアスケーターの羽生結弦に話をしました。
5 / どのようにして卓越したスポーツ選手たちは,ゾーンに入ることができるのでし
ょうか。その答えは基本的な練習と反復です。同じ行動を十分な回数繰り返すと,自
分の体がひとりでに動き始めます。自分が何をしているか,もはや考える必要もなく
なります。これが勝利への鍵の一つです。
6 / ゾーンに入ったとき,プロのアスリートたちは最高のプレーをします。すると,
彼らは最高レベルの集中に達するのです。何千時間もの反復練習の後にだけ,これが
可能となります。
7 / 次に,チームスポーツの事例について考えてみましょう。チームが強くなるため
に,選手全員がひとつになって考えることが必要です。チームメイトが常に何を考え
ているか理解し,感情を考え,そして十分に耳を傾ける必要があります。
8 / この次の例について考えてみましょう。ある重要な試合で,チームのキャプテン
があなたに何かするように指示したとします。けれども,あなたはそれが良くない考
えだと思っています。そのような場合,尊敬と感謝をもってその考えを受け入れるの
が最良です。チームメンバー全員がこれを十分に行うと,お互いにより良く理解でき
るようになります。協力的な態度は,チーム全体に広がっていきます。チームはまる
でひとつであるかのようにプレーし始めるのです。
9 / サッカーでは,パスをすばやく出すことはとても重要で,これは良いチームワー
クがあればこそできることなのです。私はかつて,日本女子サッカーチームのなでし
こジャパンのコーチにこのアドバイスをしました。
10 / 次に,日常生活における脳の使い方について考えてみましょう。1 つ重要なこ
とがあります。フィニッシュラインをあまり考えすぎてはいけません。私は以前,水
泳選手の北島康介にこのアドバイスをしました。図 1 を見て下さい。フィニッシュラ
インが近くにあると考えるとき,脳はあまりよく機能しないのです。
11 / 時として,希望する目標が非常に大きいことがあります。その場合は,一連の
小さな目標だと思ったほうがよいです。大きな最終目標はしばしば,達成しにくいよ
うに思えるのです。脳はそのような難しい課題に対して,否定的に反応するのです。
けれども,小さな課題だけを考えるとき,脳はとても肯定的に反応します。こうすれ
ば,とても難しい最終目標でさえもしばしば,達成することが可能になるのです。
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