猿、恩を知ること 現代語訳 品詞分解 | STUDY POINT~高校授業編~

猿、恩を知ること 現代語訳 品詞分解

古典(現代語訳 品詞分解)

猿、恩を知ること








中ごろ、伊豆の国のある所の地頭に、若き男ありけり。狩りしけるついでに、猿を一匹生け捕りにして、これを縛りて家の柱
に結ひ付けたりけるを、彼の母の尼公、慈悲ある人にて、「あらいとほし、いかにわびしかるらん。あれ解き許して、山へやれ。」
と言へども、郎等、冠者ばら、主の心を知りて、おそれてこれを解かず。「いでさらば我解かん。」とて、これを解き許して、 山へやりぬ。
これは春の事なりけるに、夏、覆盆子のさかりに、覆盆子を柏の葉につつみて、隙をうかがひて、この猿、尼公にわたしけり。
あまりにあはれに、いとほしく思ひて、布の袋に、大豆を入れて、猿にとらせつ。
その後、栗のさかりに、さきの布の袋に栗を入れて、隙にまた持て来たる。このたびは、猿を捕らへて置きて、子息を呼びて、
この次第を語りて、「子々孫々までも、この所に猿殺さしめじと、起請を書け。もしさらずは、母子の儀あるべからず。」と、
おびたたしく誓状しければ、子息、起請書きて、当時までも、この所に猿を殺さぬよし、ある人語りき。所の名までは書かず。
人として恩を知らざらんは、げに畜類にもなほ劣れり。近代は父母を殺し、師匠を殺す者、聞こえ侍り。かなしき濁世のなら
ひなるべし。 (沙石集)






現代語訳

昔と今の中間の時代、伊豆の国のある所の地頭に、若い男がいた。狩りをした時に、猿を一匹生け捕りにして、これを縛って
家の柱に結び付けていたのを、あの(男の)母の尼公が慈悲のある人で、「ああかわいそうな、どんなにつらいことだろう。あ
れを解き放して、山へやりなさい。」と言うのだが、家臣や若者たちは、主人の心を知っているので、おそれて猿の縄を解かな
い。「さあそれでは私が解こう。」と言って、これを解き放し、山へやった。
これは春の事だったが、夏、イチゴのさかりの時、イチゴを柏の葉に包んで、(人のいない)ひまをねらって、この猿が、尼
公に渡した。あまりにかわいく、いじらしく思って、布の袋に、大豆を入れて、猿に与えた。
その後、栗のさかりの時、前の布の袋に栗を入れて、(人のいない)ひまに、また持って来た。今度は、猿を捕まえておいて、
子息を呼んで、この成り行きを語って、「子や孫の時代までずっと、この所では猿を殺させまいと、起請文を書け。もしそうし
ないと、母と子であることはありえない。」とたくさん誓いを記した紙を書いたので、子息は起請文を書いて、現在までも、こ
の所では猿を殺さないということを、ある人が語った。所の名までは書かない。
人間として、恩を知らないというのは、ほんとうに獣にもいっそう劣って劣っている。今の時代は父母を殺し、師匠を殺す者
が(いると)聞こえます。つらい末世のならわしなのでしょう。






品詞分解

中ごろ、 
伊豆 
の 格助(連体修飾)
国 
の 格助(連体修飾)
ある 連体
所 
の 格助(連体修飾)
地頭 
に、 格助(資格)
若き 形(ク・連体)
男 
あり 動(ラ変・連用)
けり。 助動(過去・終止)
狩り 
し 動(サ変・連用)
ける 助動(過去・連体)
ついで 
に、  格助(時間)
猿 




を 格助(対象)
一匹 
生け捕り 
に 格助(状態)
し 動(サ変・連用)
て、 接助(単純)
これ 代名
を 格助(対象)
縛り 動(ラ四・連用)
て 接助(単純)
家 
の 格助(連体修飾)
柱 




に 格助(場所)
結ひ付け 動(カ下二・連用)
たり 助動(存続・連用)
ける 助動(過去・連体)
を、 格助(対象)
彼 代名
の 格助(連体修飾)
母 
の 格助(連体修飾)
尼公、 







慈悲 
ある 動(ラ変・連体)
人 
に 助動(断定・連用)
て、 接助(単純)
「あら 
いとほし 、 形(シク・終止)
いかに 
わびしかる 形(シク・連体)
らん。 助動(現在推量・連体)
あれ 代名
解き許し 動(サ四・連用)
て、 接助(単純)
山 




へ 格助(方向)
やれ。」 動(ラ四・命令)
と 格助(引用)
言へ 動(ハ四・已然)
ども、 接助(逆接確定)
郎等、 
冠者ばら、 
主 
の 格助(連体修飾)
心 
を 格助(対象)
知り 動(ラ四・連用)
て、 接助(単純)
おそれ 動(ラ下二・連用)
て 接助(単純)
これ 代名
を 格助(対象)
解か 動(カ四・未然)
ず。 「 助動(打消・終止)
いで 
さらば 
我 代名




解か 動(カ四・未然)
ん。」 助動(意志・終止)
とて、 格助(引用)
これ 代名
を 格助(対象)
解き許し 動(サ四・連用)
て、 接助(単純)
山 
へ 格助(方向)
やり 動(ラ四・連用)
ぬ。 助動(完了・終止)
これ 代名
は 格助(提示)




春 
の 格助(連体修飾)
事 
なり 助動(断定・連用)
ける 助動(過去・連体)
に、 接助(逆接確定)
夏、 
覆盆子 
の 格助(連体修飾)
さかり 
に、 格助(時間)
覆盆子 
を 格助(対象)
柏 
の 格助(連体修飾)
葉 
に 格助(手段)
つつみ 動(マ四・連用)







て、 接助(単純)
隙 
を 格助(対象)
うかがひ 動(ハ四・連用)
て、 接助(単純)
こ 代名
の 格助(連体修飾)
猿、 
尼公 
に 格助(対象)
わたし 動(サ四・連用)
けり。 助動(過去・終止)
あまりに 
あはれに、 形動(ナリ・連用)
いとほしく 形(シク・連用)




思ひ 動(ハ四・連用)
て、 接助(単純)
布 
の 格助(連体修飾)
袋 
に、 格助(場所)
大豆 
を 格助(対象)
入れ 動(ラ下二・連用)
て、 接助(単純)
猿 
に 格助(対象)
とら 動(ラ四・未然)
せ 助動(使役・連用)
つ。 助動(完了・終止)
そ 代名
の 格助(連体修飾)
後、 
栗 
の 格助(連体修飾)
さかり 
に、 格助(時間)
さき 




の 格助(連体修飾)
布 
の 格助(連体修飾)
袋 
に 格助(場所)
栗 
を 格助(対象)
入れ 動(ラ下二・連用)
て、 接助(単純)
隙 
に 格助(時間)
また 
持て来 動(カ変・連用)
たる。 助動(完了・連体)
こ 代名
の 格助(連体修飾)
たび 
は、 係助(提示)
猿 
を 格助(対象)
捕らへ 動(ハ下二・連用)
て 接助(単純)




置き 動(カ四・連用)
て、 接助(単純)
子息 
を 格助(対象)
呼び 動(バ四・連用)
て、 接助(単純)
こ 代名
の 格助(連体修飾)
次第 
を 格助(対象)
語り 動(ラ四・連用)
て、 「 接助(単純)
子々孫々 
まで 副助
も、 係助(添加)
こ 代名
の 格助(連体修飾)
所 
に 格助(場所)
猿 
殺さ 動(サ四・未然)
しめ 助動(使役・未然)







じ 助動(打消意志・終止)
と、 格助(引用)
起請 
を 格助(対象)
書け。 動(カ四・命令)
もし 
さら 動(ラ変・未然)
ず 助動(打消・連用)
は、 係助(提示)
母子 
の 格助(連体修飾)
儀 
ある 動(ラ変・連体)
べから 助動(可能・未然)
ず。」 助動(打消・終止)
と、 格助(引用)
おびたたしく 形(シク・連用)
誓状し 動(サ変・連用)
けれ 助動(過去・已然)
ば、 接助(順接確定)
子息、 




起請 
書き 動(カ四・連用)
て、 接助(単純)
当時 
まで 副助
も、 係助(強調)
こ 代名
の 格助(連体修飾)
所 
に 格助(場所)
猿 
を 格助(対象)
殺さ 動(サ四・未然)
ぬ 助動(打消・連体)
よし、 
ある 連体
人 
語り 動(ラ四・連用)
き。 助動(過去・終止)
所 
の 格助(連体修飾)
名 




まで 副助
は 係助(提示)
書か 動(カ四・未然)
ず。 助動(打消・終止)
人 
と 助動(断定・連用)
して 接助(連用修飾)
恩 
を 格助(対象)
知ら 動(ラ四・未然)
ざら 助動(打消・未然)
ん 助動(婉曲・連体)
は、 係助(提示)
げに 
畜類 
に 格助(対象)
も 係助(例示)
なほ 
劣れ 動(ラ四・命令)
り。 助動(存続・終止)
近代 
は 係助(提示)




父母 
を 格助(対象)
殺し、 動(サ四・連用)
師匠 
を 格助(対象)
殺す
者、
聞こえ
侍り。
かなしき
濁世 
の 格助(連体修飾)
ならひ 
なる 助動(断定・連体)
べし。助動(推量・終止)


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