Designed to Change the World | STUDY POINT~高校授業編~

Designed to Change the World

PRO-VISIONⅡ

Designed to Change the World








Part 1
私たちはよく「あのドレスはデザインがよい」とか「このスマートフォンはかっこ
いい」などと言います.しかし,あるものがうまくデザインされていると言うとき,
それが誰のためにデザインされているのかについて考えることはありますか.例えば,
デザイナーは新車向けに,洗練されたデザインを苦心して作り出します.先進工業国
の消費者にとっては,その美しい外観は重要です.しかし,開発途上国,そこには人
類の大多数が暮らしているのですが,そこで暮らす貧しい人びとにとって,車のデザ
インの美しさは生活の中でそれほど重要ではないかもしれません.
「世界のデザイナーの 95%が,もっぱら,世界の顧客のうち最も裕福な 10%のため
の製品を開発することに努力のすべてを注いでいます」とポール・ポラックは言いま
す.彼は,開発途上国向けに実用的な製品を作っている非営利団体の創設者です.「残
り 90%の人びとに届くためには,まさにデザインにおける革命が必要なのです」彼は
この製品作りに関する新しい考え方を「残り 90%の人びとのためのデザイン」と呼ん
でいます.
今日,一部のデザイナーたちが,「残り 90%の人びと」向けの製品をデザインしは
じめていますが,その中には食糧,安全な飲み水,住まいのような,基本的な生活必
需品を日常的に得られるわけではない,何億もの人びとが含まれています.新たなデ
ザインが直接,彼らの直面している問題に対処し,彼らの生活を向上させつつありま
す.







Part 2
世界の何百万もの人びとが,安全な飲料水の水源から何キロメートルも離れた所に
住んでいます.もし彼らが安全でない水を飲むと,コレラや赤痢のような,水が媒介
する病気にかかるかもしれません.そこで,彼らは飲用に適した水源から水を運ぶの
に,毎日何時間も費やさなければならないのです.人びとは重い水の荷を頭の上に乗
せて長い距離を運び,そのせいでしばしば首や肩を痛めます.何百年もの間,この重
労働は,主に女性と子どもによってなされてきました.
Q ドラムは,この問題を解決するために作られました.それは真ん中に穴のある丸
いタンクで,水を「転がして」運べるようにデザインされました.Q ドラムは水を運
ぶ負担を大幅に軽減します.東ティモールのある家族は,Q ドラムを手に入れるまで
ずっと,40 リットルの水を運ぶために毎日 4 往復していました.しかし Q ドラムを使
って,今では 50 リットルの水を 1 回で運ぶことができるので,1 往復するだけでよい
のです.
Q ドラムを利用している南アフリカのある女性は言います.「水は私たちの生活その
ものです.今は生活が以前よりも楽です.私は,母や祖母が,水を運んで過ごした日々
が原因で,老人になる前でさえ腰が深く曲がり,杖をついて歩いているのを見てきま
した.小さな子どもでも Q ドラムを使うことができます.彼らはそれで遊びます.そ
して,その親たちは,家族のためにほかのことをする時間が取れます」



Part 3
世界中で 10 億以上の人びとが電気のない生活をしています.彼らの多くが照明のた
めに灯油ランプを使いますが,灯油ランプは有害な煙を出し,仕事や勉強をするのに
十分な明かりを供給しません.また,毎日の灯油代は家計の大きな負担になります.
サム・ゴールドマンは,ベナンのある村に住み,ボランティアとして働いていたア
メリカ人ですが,この問題を理解していました.ある日,村で事件が起きました.そ
の村には電気がありませんでした.灯油ランプが彼の隣家を全焼させる火事を起こし,
12 歳の少年が大やけどを負ったのです.この事件がゴールドマンを,安全で費用効率
の高いランタン(手提げランプ)を開発するよう駆り立てました.彼は,開発途上国
の人びと向けの製品をデザインすることを目的にした,スタンフォード大学の講座を
履修しました.その講座で彼は,キラン・ソーラー・ランタンと名付けた太陽光発電
のランタンを開発しました.このランタンは,完全に充電すると最大で 8 時間の明か
りを提供でき,燃料をまったく必要としません.それが必要なときにいつ,どこでも
使用できます.
このランタンは世界の 40 を超える国の,200 万の人びとに新しい光源を供給しまし
た.今では子どもたちには,よりよい学習環境があります.「このランタンは灯油ラン
プよりずっと明るいです」と,インドのある 14 歳の少女は言います.「今は,(以前よ
り)もっと勉強に興味を持っています」別の恩恵もあります.ランタンのおかげで,
夜間により長い時間仕事ができるようになったため,人びとの毎月の収入が増えまし
た.







Part 4
「残り 90%の人びと」向けの製品をデザインするには,違ったやり方が必要です.
デザイナーが製品のデザインをより魅力的にしようとしたり,あるいは,より多くの
機能が加えられたりすると,製品の価格は上がります.裕福な人びとはそれらの製品
の代金を支払うことができるし,支払ってもかまわないと思っています.しかし,世
界の 7 億の人びとは,1 日 2 ドル未満で暮らしていて,生活必需品にほんのわずかの
お金しか費やせません.彼らにとっては,製品は何よりもまず手が届く値段でなけれ
ばなりません.
低価格の製品を作り出す前に,デザイナーは開発途上国の人びとの生活スタイルを
理解しなければなりません.彼らがどのような種類の製品を欲しがっていて,それに
対していくらなら支払う余裕があるのかを知らなければなりません.「人びとが本当に
必要としているものを探さなければなりません.それ以上でもなく,それ以下でもな
く」とゴールドマンは言います.
貧しい暮らしをする人びとは,こうした姿勢を歓迎しています.「私たちはようやく
顧客として認められつつあると感じます」と彼らは言います.「デザイナーたちが私た
ちの必要としている物について尋ね,それに応じた製品を開発していることをうれし
く思います」と.デザイナーについて言えば,彼らは自分たちのデザインが人びとの
生活を向上させているのがわかります.貧困と闘う目的で,デザイナーたちは実用的
で命を救うことさえできる製品を作り出すために,現地の人びとと意思の疎通を図ろ
うとしています.一つ,また一つと,彼らのデザインが世界を変えつつあります.


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