Donald Keene and His Love of Japan

1 / ドナルド・キーンは，日本の言語と文化への国際的な関心を高めるために，他の
誰よりも多くのことをしてきました。学者としての彼の重要な取り組みは，1955 年
に始まりました。その年にキーンは，英訳の最初の日本文学作品集を出版しました。
その本は世界に幅広い作品を紹介しました。その中には，古典文学から徳川時代のも
のまでが収められていました。その本により，万葉集の詩と，近松門左衛門の演劇も
紹介されました。次の年には，キーンはさらにもう１つの作品集を出版しました。そ
のときは明治，大正，昭和時代からの作品でした。
2 / キーンは翻訳の多くを自身の手で行いました。他の学者たちもその本の作品を翻
訳しました。しかし，キーンは，どちらの本にも，編集者として務めました。彼はま
た，それぞれの本の制作を始めから終わりまで指揮しました。日本の外の世界が，多
岐に渡る日本文学に初めて目を向けたのは，彼のおかげなのです。2 冊の本は，日本
文化全般への関心を喚起しました。そしてまた，多くの読者が日本語を学び始めるき
っかけにもなりました。60 年以上経った今日でも，その 2 冊の本は依然として，日
本文学の講座を英語で提供している大学によって世界中で使用されているのです。

3 / ドナルド・キーンは，1922 年にニューヨークで生まれました。若いころ，彼は
知性めざましい学生でした。ニューヨークの有名校であるコロンビア大学に 16 歳で
入学を許可されたのです。その当時キーンは，日本に何ら特別な興味を抱いていませ
んでした。しかし 2 年後，彼はたまたま安値で本を売っている店を訪れました。偶然，
彼はそこで『源氏物語』と題されたものに目を留めました。この幸運な出会いが，彼
の生涯の仕事の始まりとなったのです。彼は，日本の言語，文学，文化の学者となり
ました。
4 / キーンはその日『源氏物語』を購入しました。ひとたび読み始めると，やめるこ
とができませんでした。彼はその小説が魔法のような作品で，美しい世界を呼び起こ
したと書いています。キーンは，戦争に反対した人物ですが，その作品を読んだこと
について，「『楽しむ』は適切な言葉ではない」とも記しました。彼は「身の回りの世
界に存在していた私が憎んだすべてのものからの逃げ場として，私はその小説に救い
を求めたのです。」と述べました。その時彼は，ヨーロッパと東アジアの両方で繰り広
げられていた戦争のことを非常に残念に感じていたのです。

5 / キーンはすぐに，個人的に日本語の学習を始めました。後に彼は，アメリカの海
軍兵学校で授業を受け始めました。これは，日本とアメリカ合衆国の間で戦争が勃発
した後のことでした。海軍兵学校は人々を翻訳者や通訳になれるよう訓練していたの
です。キーンは，軍で働くのを避けるのは不可能だろうとわかっていました。しかし，
彼は，言語の専門家としてならば，少なくとも人を殺さねばならない事態は避けられ
るかもしれないと考えたのです。
6 / 1943 年，ハワイで海軍に勤めていた間に，キーンはもう 1 つの重要な出会いを
果たしました。彼は日本兵たちによって死ぬ前に書き残された日記の詰まった箱を見
つけたのです。キーンは，その文面の多くは非常に感動的だと思ったのです。彼は兵
士たちの，家族への思いについて読みました。彼らの未来への希望を知りました。彼
らが死ぬ前にどれほど苦しんでいたのかを知って，悲しく思いました。彼はその時は
っきりと，このような「敵」は，人間性という面で自身とほとんど同じであることに
気が付いたのです。ドナルド・キーンは，日本人に対して同情と思いやりの気持ちを
強めたのでした。こうした感情は，彼の生涯を通して彼の中に残り続けているのです。

7 / 戦後，キーンはコロンビア大学に復学しました。しっかりと目標が定まった状態
で，彼は大学に戻りました。日本とその文化について，もっと多くのことを学びたい
と思っていました。彼はその長い経歴の中で，日本とその文化に関連する様々な話題
についても文章を書いてきました。キーンは英語と日本語の両方で書いています。ド
ナルド・キーンは，数多くの賞や栄誉を受けました。2008 年には文化勲章を贈られ
ました。キーンは，この賞を受賞した最初の外国人となりました。この賞は，日本の
芸術，文学，またはその他の日本文化の領域において大きく貢献した人物に与えられ
るものです。
8 / 2011 年の地震と津波災害の後，ドナルド・キーンは日本に移り住みました。2012
年には，日本国民となりました。1940 年に『源氏物語』を発見してからの彼の人生
は，きわめて生産的で，かつ大いに称賛されるものでした。キーンの著作は，彼の日
本への愛の深さを示す作品ばかりです。そして今や日本は，キーンの新しい，永住の
地となったのです。